熊本市電の車両感知信号

Trolley Contactors of Kumamoto City Trams

熊本市電系統図 (1968.2-70.4)

「信号ウオッチング」のページで話題になった熊本市電の十字を現示する信号灯の作動機序を,辛島町近辺を例にまとめます。
熊本市電は広島・松山と同様に,旧都電タイプの,コンタクタを連続して叩くか否かによって進路が設定されるシステムです。



辛島町の折返しポイント前後のトロリーコンタクタ(一部)の配置図(下が北)


問題の信号灯は曲線信号の出る交差点付近に設置され,通常は滅灯しており,電車がトロリーコンタクタを叩くと十字が点灯する。従って点灯は,信号システムが電車を感知したことを意味するだけである。ただし曲線信号が出る交差点であっても市役所前のように,電車の有無と関係なく交通信号に連動して周期的に黄矢印が出る交差点には設置されていない。またかつて同様の信号灯が設置されていた交通局前には,(黄↑・赤×)の信号灯が設置されているが,これは通常滅灯なので,事実上車両感知信号の機能を兼ねている。

大まかに言って,図中赤で表示されるコンタクタは信号灯を点灯させ,青で表示されるコンタクタは滅灯させる。①と④の位置には,連続して2個コンタクタが設置されているが,これは電車の進行方向を感知する必要があるためである。それでは進行方向・系統別に作動機序を説明する。

  • 南行(図では上方向)の2系統:①を叩き,連続して②を叩く位置(交差点直前)まで進行する。①を叩いた瞬間に問題の信号灯が点灯する。①を叩いて所定の秒数以内に②を叩くことで進行方向は左折に設定される。交通信号に連動して黄←が出ると進行し,カーブ途中の③を叩いた瞬間に+現示は滅灯し,黄矢印は赤×に変わる。

  • 西行(図では右方向)の3系統:①を叩いた位置で暫く待機する。①を叩いた瞬間に+が点灯する。数秒の停止後,②を叩いて交差点直前まで進むと進行方向は直進に設定される。交通信号に連動して黄↑が出ると進行し,交差点対岸の③を叩くと+現示は滅灯する。

  • 辛島町方からの折返し電車:①を叩いた位置で停止する。①を順方向に叩いた瞬間に+が点灯するが,②を叩かないため基本的に3系統として認識される。折返して①を逆方向に叩くことで,3系統としての認識が解除され,西辛島町側の+現示は滅灯するが,今度は④を叩くため,辛島町側の信号灯が点灯する。交通信号に連動して黄←が出ると進行し,カーブ終端の⑤を叩くと+現示は滅灯する。

  • 東行の2系統・3系統:④を叩いた瞬間に辛島町側の信号灯が点灯する。交通信号に連動して黄←が出ると進行し,カーブ終端の⑤を叩くと滅灯する。

  • 西辛島町・慶徳校方からの折返し電車:④を叩いた位置で停止する。④を順方向に叩いた瞬間に辛島町側の信号灯が点灯する。折返して④を逆方向に叩くことで+現示は滅灯するが,①を叩くため西辛島町側の信号灯が点灯する。上熊本駅方面へ行く場合は,ここで一旦待機することで,直進に進路が設定される。熊本駅方面へ行く場合は,ここで待機せずに続いて②を叩くことで,左折方向に進路が設定される。

    ①のコンタクタと②のコンタクタ(白↓の位置)の中間位置で待機する3系統8202号。交差点手前の停止位置は②のコンタクタの通過直後になる。2系統1205号。
    辛島町交差点で待機する9704号。対岸の黄←と+の信号灯器は一体化されている。西辛島町から慶徳校方を望む。8800型101号の少し手前の架線上に滅灯用コンタクタが見える。

    熊本市電の本線分岐はあと1ヶ所,大江車庫への入庫線(交通局前)にもある。ここは下り線から単線が背向で分岐するだけであり,トロリーコンタクタ配置は理論的には下図(下が北,左が健軍方)のようになる。電車用信号機としては,(↑×)の2現示のものが4組(本線順行・本線逆行・入庫・出庫)設置されている。


    昼間時間帯に本線下り電車以外を見る機会は殆んど無いので確証はないが,コンタクタと信号機の配置から想像される作動機序は以下のようである。なお④のコンタクタは実際には複合的に配置されているが,ここでは説明のため簡略化して示す(誤りがあれば伝言板でご指摘下さい)。

  • 本線下り電車:①を叩くのと同時に本線順行(下り向き)の↑信号が点灯し,その他は×現示となる。②と③を続けて叩くことで滅灯する。

  • 入庫電車:下り電車でも上りからの折返しでも,①を叩くと本線順行の↑信号が点灯し,その他は×現示となる。②を叩いた後③の手前で一定秒数以上待機することで入庫電車と認識され,本線順行が×,逆行と入庫信号が↑に変わる。折返して②に続いて④を入庫方向に叩くことで信号機は滅灯する。

  • 下り方向への出庫電車:④を出庫方向に叩く時,①~③間に電車が入っていなければ出庫信号が↑となり,その他は×現示になる。②と③を続けて叩くと信号機は滅灯する。

  • 上り方向への出庫電車:④を出庫方向に叩く時,①~③間に電車が入っていなければ出庫信号が↑となる。②を叩いた後③の手前で一定秒数以上待機することで折返し電車と認識され,本線逆行信号が↑となる。①を逆方向に叩くと信号機は滅灯する。

    大江車庫入庫線付近の信号機配置がわかる。本線逆行信号機の裏側には交通信号機と一体化された順行信号機,入庫信号機の裏は出庫信号機が設置されている。入庫して来る車体更新車8504号。方向を検知するだけならコンタクタは2連で十分と思えるが,④の位置には何故か4連で設置されている。
    入庫線のフェンス右側の切欠きに見える配電函の中には,この分岐点の継電連動盤が収容されている。(5/23/2004)主力が上熊本へ移転して寂しくなった大江車庫であるが,年前の冬の午後には派手な塗装の連接車が昼寝しており,上屋付きの出庫電車専用の乗り場もあった。

    [補遺]伊予鉄道松山市内線の場合

    同様のシステムを採用している松山市内線の場合,信号システムの構成はかなり異なる。3箇所ある分岐交差点のうち,上一万を例として解説する。
    ①の「電車用信号」は単なる白色灯で常時点灯であるが,電車が1個目のコンタクタを叩くと滅灯する。城北線へ左折する電車は,そのまま2個目のコンタクタを叩き停留場へ進入する。①は再度点灯し,③の進路確認信号の左←が点灯する。道後温泉へ右折する電車の場合,1個目のコンタクタを叩いて,安全地帯に設置された②の信号灯が点灯するまで待機する。停留場に進入すると,①が点灯,②が滅灯し,③の右→が点灯する。 車両感知をトロリーコンタクタで行う路線の場合,電気運転でない車両の扱いに困るが,「坊ちゃん列車」とて例外ではない。伊予鉄道14号機関車はディーゼル動力だが,交差点ごとに客車からビューゲル状の竿を上げて,トロリーコンタクタを作動させねばならず,いささか興醒めと言える。(上一万,8/8/2004)
    (7/18/2004)

      広島電鉄の場合 (別サイト):連接車が2丁パンタ,かつ進行方向側だけを上げるのは,トロリーコンタクタを作動させるため
      土佐電鉄の場合