北陸新幹線との直通運転

Direct service with Hokuriku Shinkansen


3線軌条方式/Dual Gauge Tracks

北陸新幹線の新大阪乗入れに関しては,小浜・京都ルートが与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームにより選択されたが,路線が通過するだけの南丹市や,大深度による地下水脈の変化が懸念される京都市からの理解が得られていない。 「北陸新幹線敦賀・大阪間のルートに係る調査について」 (国交省鉄道局,2016.11)によれば,小浜・京都ルートのB/C比は1.1とされ,米原ルートの半分に過ぎない。2016年時点でも2兆円超とされた建設費は,資材・人件費の高騰により,現状では少なくとも3兆円に達すると見られ,結果的にB/C比が1を切るのは必定と見られる。今後の人口減少社会が,社会保障を犠牲にしてまで小浜・京都ルートを建設すべきか,精査が必要だろう。 B/C面でも,北陸⇔中京間の流動にも対応できる点でも米原ルートが最も有利だが,新大阪~米原間の新幹線経営主体が異なることによるJR西日本の逸失収益や,運行管理システム(PTC)の相違を理由に,同ルートの実現可能性を否定するが,乗換1回なら現状の敦賀乗換と大差なく,運賃収入に関しては新たな運賃分配ルールの策定,運行管理システムについては読替装置の導入で対処可能なレベルだと考えられる。

Dual gauge of Hokuriku Shinkansen.. 北陸新幹線は当面,「フリーゲージトレイン」の直通により関西圏と結ぶ予定だったが,開発の断念により敦賀乗換が固定化される懸念が,新大阪~敦賀間の延伸を急ぐ理由になっている。直通だけを取れば,元々整備新幹線計画には「スーパー特急方式」が含まれていたこともあり,3線軌条による直通でも許容範囲になる。たとえば敦賀~金沢間,125.1kmを3線軌条にすれば,当初スーパー特急が想定した200km/h運転でなくても,160km/h運転でも十分機能が果たせるはずである。整備新幹線の最高速度は260km/hであり,実際には42分程度で運転されているため,表定速度は180km/h程度になる。この区間を狭軌車両が表定速度140km/h程度で走れば所要は53分程度と,約10分の差になるので,運転間隔が15分程度あれば逃切り可能だろう。

北陸新幹線配線図によれば,敦賀~金沢の中間では,越前たけふと加賀温泉の2駅が退避可能であり,福井駅が島式であることを除いて,何れも相対式2面になっている。このため津軽海峡線と同様に,狭軌車両の外側走行を原則とし,福井駅前後のみ内側に遷移する亘線を設ければよい(京急線・六浦駅前後に実例あり)。左図は683系とE7/W7系を模式的に描くが,相対式ホームの場合,E7/W7系の軌道からの張出し972.5mmに対し,683系は924mmであるので,ホーム停車時には狭軌車両の方が5cm弱ギャップが大きいことになる。むしろ床面高さが問題で,新幹線の標準的ホーム高さ1250mmに対し,683系の床面は1125mmなので逆段差になるが,これについては少し高床の車両を導入すれば解決可能だろう。

Narrow gauge train on Hokuriku Shinkansen. 左表は25年3月改正の北陸新幹線上り時刻の一部を示す。ここには1002Eから4Eの3本の列車と,各列車の区間表定速度を示しているが,各列車の当該区間通過時分は42~57分になっている。太字は退避可能駅であるが,平常ダイヤでは中間2駅における退避は発生しない。4本目は4Eを狭軌車両で運転する場合の概その時刻を表すが,狭軌列車4Mの表定速度は4Eを参考に最右列のように想定している。

表では狭軌列車の所要時間を62分程度と見込んでいる。新幹線の営業距離は在来線より5.6km短く,在来線サンダーバードの敦賀停車列車は,敦賀~金沢間を76~80分で走行していたことを考えれば,概ね妥当な線だろう。4E後続の臨時列車8082E(敦賀0855→金沢0938)が運転される場合でも,逃切り可能な時刻になると想定されるし,逃切り不可能であれば,途中駅での退避を考えればよい。敦賀~金沢間は,津軽海峡線の3線軌条区間82.1kmの約1.5倍となるが,それに伴う技術的困難は考えにくい。なお3線軌条は待避線側のみとし,通過線には不要だろう。


軌間可変方式/Gauge Changeable Trains

大阪~敦賀間には,当初「フリーゲージトレイン」を導入する計画だった。1998年から2014年に掛けて,第3次まで試験車両が製造されたが,車軸や軸受の耐久性が解決困難であり,また車両コストが高い割に最高速度が270km/hに制限される等,実用化には超えるべき課題が多く,結局開発は断念された。中国中車(CRRC)は2020年10月に,610mm(2')軌間から1676mm(5'6")軌間まで対応可能,かつ最高速度400km/hの軌間可変電車の試作車(4M4Tの8両編成)を公開したが,その後実用化した話は聞かない。日本の1067mm(3'6")軌間でも,モーターの装荷スペースに苦労したので,610mmは「白髪三千丈」の類に思える。

軌間変換列車としては,スペインの1668mm(イベリア軌間)とフランスの標準軌を直通するTalgoが,1950年から運転されて来た実績がある。Talgoは基本的に左右独立の1軸台車を用いた連節構造で,動力集中式(機関車牽引)であるため,日本の新幹線とは条件が異なる。81年のTalgo Vでは運転速度は160/180kmとされるが,両端を動力車で挟むタイプでは,2024年のRenfe 106系が,スペイン国内の在来線(1668mm)と高速新線(1435mm)を,営業速度330km/h(新線側)での直通運転を実施している。動力台車を含まない客車タイプと異なり,両端動力車を含む固定編成では動力台車も軌間変換の対象になる。

とは言え,動力台車が無ければ軌間変換が容易になることは想像に難くない。たとえばフル規格新幹線が完成するまでの繋ぎという位置づけなら,軌間変換可能な客車編成を機関車でPush-Pull運転することは,技術的には難しくないと思われる。下図の例は,左が大阪方-右が金沢方を想定しており,下り列車については大阪~敦賀間を推進運転として,編成の金沢方には狭軌線用の運転室を備える。逆に上り列車では金沢~敦賀間が推進運転になり,編成の大阪方には新幹線用の運転室を備えるような,無動力の制御客車編成の開発を前提としている。


同様の運転方式は,スイスのMontreux–Oberland Bernois (MOB)鉄道で,2022年12月から実施されている。スイスの山岳鉄道は1000mmゲージが多く,Zweisimmen駅の軌間変換装置を経て標準軌間のBLS線に直通する。狭軌と標準軌の機関車を交換して牽引・推進運転を実施する。ただそれでも初期故障(標準軌側の分岐器の過度の摩耗)により,僅か3ヶ月で運行休止(狭軌線のみでの運行)に追い込まれたが,直通運転は23年6月に1日1往復で再開された。観光路線であるため高速は要求されず,条件は異なるが方式は検討に値する。

動力集中方式の場合,機関車が重くなるため,構造物の設計強度が問題になる。線路構造物の設計に際して,蒸気機関車の「KS荷重」が長い間用いられたが,さすがに今は「EA荷重」(新型機関車用)が用いられる。湖西線は旧国鉄の2級線に分類されていたため,軸重は17t=166.7kNに相当し,E-17荷重で安全側になる。一方新幹線では「H荷重」が用いられ,比較的軽い700系でH-16(軸重160kN)が用いられる。従って機関車牽引の場合,耐荷力がやや不足する可能性があるので,確認が必要となる。

北陸新幹線内で180km/h運転が可能なら,適切に退避するダイヤを工夫することで,敦賀-金沢間を新幹線車両と混在して走行することは可能だろう。北陸新幹線がどのルートに決まるとしても,完成は小浜・京都ルートで2046年以降になると見込まれる。それまで20年以上に渡って在来線乗継ぎによる不便を強いられるが,20年もあれば関西と北陸地方の伝統的な結びつきを損なうには十分だろうから,大阪~金沢間の直通運転の復活は急務であり,その間にフル規格新幹線の整備の必要性を再検討する時間的余裕を持つことができる。

※サイドビュー画像は,TBForumの画像を使用しています。681系は黄帯快速様,EH800・EF510については,moko様の投稿に基づきます。

(12/5/2025)